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【ノマド|ロシアセクション】

旅のコラム

ロシアのウオッカ

2007.08.02

誰がどんな風に、そして何故ウオッカを飲むのか?

 ロシアのウオッカについて書いてみないかと、ノマド社のゴルゴ氏が僕に問いかけたのは札幌の温泉で久方ぶりに僕達がくつろいでいた時だった。充分すぎるほどロシアを訪れているゴルゴ氏にしてさえ、この伝統的なロシアの飲み物については知ることが少ないという。ゴルゴ氏の言葉に反応したのは、僕がこの飲み物については少なからぬ大家であるからでは、勿論ない。日本の友人達や仕事の仲間、また行きずりに出会った日本人が、わが習慣についてはあまり詳しくないと思い至ったからだ。喧騒極まるロシアのテーブルで、日本人の多くは困惑も明らかにショットグラスを掲げている。
 このささやかなシリーズで僕はウオッカの歴史や風習、その危険性について書いていきたいと考えている。そして勿論、この強力な飲み物と後悔なしに付き合う方法についても指南したい。
ミハイル ブガーエフ、在サハリン。

ウオッカの歴史から

 「ウオッカ(водка)」という言葉は17世紀ルーシの頃から用いられていたが、これは「水(вода)」から派生した単語である。古い時代にはこの飲み物は、小麦ワイン、居酒屋ワイン、兵営ワイン、熱いワイン、焼きワイン、辛いワインなど様々な他の言葉で呼ばれていた。ウオッカ、正確に言うならウオッカの原型-ラテン語でaqua vitae(生命の水)と呼ばれていた強いアルコール飲料-をロシアに伝えたのは、モスクワを通ってバルト海沿岸のリトアニアに向かうジェネバの商人達であった。ある時この異国人たちが、ドン川流域のクリコヴァ平原での戦いでモンゴル・タタール軍を打ち破った(1380年)功績により、ドン地方の大公と呼ばれていたドミトリー・イヴァノヴィチ・ドンスコイ公の謁見を受けた。モスクワのもてなしに感激した異国人は、話に出てきた人を酔わせる飲み物を公に贈った。しかしその頃のロシアでは、蜂蜜から作ったミード酒や発酵酒のビールが好まれていて、この葡萄液から作った蒸留酒に人々は格別な関心を持たなかった。
 時は流れ、1429年に再び「生命の水」が、今度は万能薬としてモスクワに持ち込まれた。当時のモスクワ大公は若いワシーリー2世であったが、彼は度重なる親族間の戦いで視力を失い「盲目公」と呼ばれていた。
「生命の水」はこのモスクワルーシの館で皆に大変気に入られたのだが、そのアルコールのきつさから当時は割って飲まれていた。どの様にこの飲み物を作るのか、原料は何かと調べられ、そして、ロシアのウオッカ造りが始まった。勿論、ロシアウオッカの原料は穀物だ。それなら、ロシアにはたんとある。こうして、とにもかくにも15世紀にはモスクワルーシの修道院で穀物を原料とするロシアのウオッカが作り始められるに至ったのである。

ウオッカと風習

 食文化としてウオッカを楽しむという気風は、今はロシアにはない。現代のロシア人は、味わうためにではなく、強力に作用する麻薬的物質としてこれを飲んでいる。
 確かに数百年前からロシアの農奴たちは、疲労を和らげ、つらい現実から酩酊状態へと誘ってくれるウオッカを、わずかな休息のひとときに飲んでいた。農民達が飲んでいたウオッカは、粗雑な製法の、安酒に特有な臭いのするものだった。ひどい臭みをなるべく感じなくてすむように、グラスのウオッカは一口で飲み干された。こんな飲み方は、「一気飲み(залпом)」というが、これは軍事用語の一斉射撃と同じ言葉だ。つまり、皆でウオッカを飲み落とすのだ。
 一気飲みすると、ウオッカの臭気やのどを焼く痛みを感じないですむのだが、アルコールの衝撃は一瞬のうちに体内を駆け巡る。すぐに体が温まり(実際、寒い冬道から帰り着いたときに、一杯のウオッカをよく口にする)、緊張が解きほぐされ、軽い酔いを感じて心と体が弛緩する。

 ひどいウオッカをつまみなにしに飲むと酒臭さがつきまとい、喉の焼ける痛みもすぐには消えない。それで、つまみが大切なのだが、塩漬けやオイル漬けにした野菜やきのこが一般的だ。他のつまみでも、喉の痛みと酒の臭いを消すためにはピリッときつい味付けが必要だ。
 ところで、ロシアの生活を紹介した映像などで、主人がウオッカの注がれたグラスと胡瓜をのせた皿を玄関先まで持って出て客を出迎える場面を目にしたことがあるかもしれない。これは賓客への礼を示すと共に、上等のウオッカを客に振舞える豊かな家であることを伝える風習である。

ウオッカを飲む時のアドバイスを一つ

 ウオッカを勧められそうなロシアの食卓に招かれた時に、もし貴方が悪酔いや二日酔いをひどく恐れるなら、活性炭の錠剤を用意しておくことをお勧めする。活性炭はアルコールを吸着して血液への吸収を防ぎ、これを体外に排出する。全く無害な活性炭錠剤はロシアの薬局では普通に売られており、診断書なしで購入できる。一杯目のウオッカを口にする10分から15分前に活性炭錠剤を4錠呑み、その後は1時間ごとに2錠服用する。これで、ウオッカに酔ってしまうことは避けられる。もっとも、どの位の量を飲むかが問題ではあるが。

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