旅行代理店ノマドのサハリン旅行を中心としたロシア専門部門「ロシア・セクション」

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RUSSIA SECTION

【ノマド|ロシアセクション】

旅のコラム

第33話 出たとこ勝負!(下)

2009.10.03

レスノイエの河口は数年前に道路調査の際訪れたところだった。確か鮭鱒捕獲場があったはずと記憶していた。二つの湖を経由して牧歌的な風景と海が広がるロケーションとしては道すがらも結構いい感じのはずだ。
 選択は当たりのはずだが、心の中では「頼むぞ捕獲場!頼むぞロシア人!」と神頼みだった。バスを捕獲場の「関係者以外立ち入り禁止」の看板を過ぎて奥へ進める。奥からゴッツイロシア人が二人いかつい顔でやってくる。「やった~。業務中だ!ラッキー。」
私はすぐさま両ポケットにウオトカ2本を突っ込んでバスを降りる。これまでの人生の中で最高の笑顔を作り両手を広げさわやかに「ズドラーストビーチェ!」力強く握手をして、早速本題を切り込む。第一声「素晴らしいところだ。」「日本ではこんな壮大なシーンを見ることはできない。」「実に勇壮ではないか。」「日本の哀れな観光客に是非見学させてほしい。」「場長、あなたをみんなに紹介させてくれ。お名前は?」矢継ぎ早にたたみかけ一気に流れをつくる。
そしてウオトカを手渡しながら片目をつぶり「魚ちょっともらってもいい?」
場長は人懐っこい笑顔で「オー、好きなだけ持ってけー!」。「よしやったー。」
これで本日のピクニックプログラムの50%は約束された。捕獲場の堰き止めダムを超えて多くのカラフトマスが足もとの川に黒く群れをなしている。「みなさ~ん、遡上するマスを見学しましょう。獲ってもいいですヨ~。ここでの漁果でお昼ご飯が決まりますからね~、獲れなかったら昼メシ抜きー。」みんなは大笑いだったが、、、、、、、、嘘ではなかった。
参加者の方々はみな初めての経験である。歓声を上げてズボンの裾を捲り上げ、スカートをたくし上げ川に入っていく。自然と4,5人のチームが出来、追い込み役と捕獲役で確実にゲットしていく。日本では絶対体験できない自然河川での鱒の手掴み漁である。もちろんロシアでも密猟だ!
参加者は子供のように川のなかで「あっちへ行った!」「こっちへ来た!」で大はしゃぎ。
その盛り上がりようったら、ディズニーランドもユニバーサルスタジオも足元はるかに及ばぬくらいの大盛況。大漁であった。私は心の中で「まず半分(半日)OK~。」と胸の半分をなでおろした。
 後半戦はこれからだ!
昼をちょっとすぎたくらいだった、ここからがピクニックのメインである昼食だ。バスのドライバーに「イズメンチェボの湖岸に行ってくれ。」
湖に注ぎこむちいさな小川を見つけた。バスを止め、あたかも予定通りだったかのように「みなさ~ん、今日のピクニック昼食場所で~す。40分自由行動にしま~す。」「お手伝いいただける方募集―。」
ホテルでかき集めたピクニックセットのようなもののセットをお願いした。私は車から魚をおろしその間にホーロー引きのバケツに水をいれ薪集めに走った。この時ドライバーのサーシャは私が何をしようとしているのかすべてを悟ってくれた。予測していなかった強力な援軍を得ることができた。彼はバスからのこぎりと斧を引っ張り出しあっという間に焚火を作り水の入ったバケツを突っ込んだ。通訳のアルバイトで同行してくれたジェーニャもまた察した。魚と野菜をもって小川に走る。今日のメイン料理となる「ウハー(三平汁)。」だ。
極東ではウハー作りは男の仕事である。たしなみと言っていいほどに普及している。本当にあっという間にすべての材料が投入された。サーシャはつきっきりだ。頻繁にアクをとり味見しながら塩を振る。キッカリ40分後、サーシャは片目をウインクして親指を立てた。私はこの時、ロシア人がまたたまらなく好きになった。
絶望の弁当からスタートしたピクニックだったが、セッティングが完了してみればロシア風サンドウィッチ、ピロシキ、カットトマト、ロシアンティー、ウオトカ、そしてメイン料理は獲れたてカラフトマスの熱々ウハー(三平汁)である。その見せ方やセッティングもあったであろうが素晴らしいランチが演出できた。お客様も自分たちが獲った新鮮この上ないマスでる。美味しくないはずがない。大成功のオプショナルツアーとなった。

すべてが僥倖であったと思う。通訳ジェーニャ19歳(女の子)の手さばきのいいこと!そして何事につけ勘のいいドライバーのサーシャ。このタイミングでのこの二人との出会いは何者かに感謝である。
ジェーニャはその後財閥系日本企業の現地代表部秘書となった。さもありなん。
サーシャとはその後何度も仕事をした。もちろん当社からの指名である。バスはサハリンで一番ボロかったが、幾度も窮地を救ってくれた。
大変な時代だったが、いい時代だった。

 2009年。バスにはエアコンが装備され、自動ドアは当たり前、ケータリングもランチボックスに日本食。わずかの間に州都周辺のサービスインフラは急激に整備された。
だけど州都を離れれば相変わらずのところが多い。私はいつの間にかそんな「相変わらず」ばかりに目が向いている。

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